別れに餞を

この星に災厄が訪れた時。十四人委員会は星の意志を創り出し、これを退けるという策を編み出した。
星の状況を見れば、おそらく最善の策なのだろう。だからこそ、私がどれだけ異を唱えたところでそれは覆らない。次に議題に挙がれば、いよいよ実行は確実なものになるだろう。
議事堂の一部屋でしばし考え込んでいたが、どうにも埒が明かない。思わずため息がこぼれる。気分転換にエントランスに出ようかと扉を開けたところで、白いローブの青年が扉の前に立っていることに気がついた。
入ってもいいかい、と控えめに問われ、そのまま部屋へ彼を招き入れる。開けた扉を閉めながら、彼――エリディブスへ声をかけた。

「どうしたの、エリディブス」
「君の様子を見に来たんだ。このところ、いつものアゼムらしくないと思ってね」

どうやら私を心配して来てくれたらしい。
私を目で追いながら、彼は言葉を続ける。

「とはいえ、理由はおおよそ推察できる。……災厄への解決策について、思うところがあるんだろう?」

これまでの弁論でも散々異議を唱えてきたのだ、エリディブスでなくとも私が委員会の方針に疑問を持っていることはわかるだろう。日頃の行いの影響か、『またアゼムの我が儘か』などと呆れている者も少なくない。
それを彼は真面目に心配し、真剣な面持ちでこうして会いに来てくれている。私のことを買いかぶりすぎではないかと思うこともあるが、それだけ気にかけてくれているという事実は、素直に嬉しかった。
肩を竦めながら苦笑すれば、彼の雰囲気もいくらか和らいだように見えた。
彼に椅子を勧め、自分もテーブルを挟んで向かいの席に腰掛ける。
どうせ部屋には2人きりなのだ、咎める者はいまいと素顔を見せる。

「君はどう思う? 星の意志を創り出すことが、本当に最善の解決策だと思うの?」

目の前に座る彼に問いかける。が、実のところこれは意味のない質問だ。
『エリディブス』ならば、是と答えるだろう。何故なら、他ならぬ彼の調停ありきで委員会の方針は決められているのだから。
案の定、彼は肯定をした。しかし、少し考え込むそぶりを見せてから、口を開く。

「私個人としては、アゼムが悩む気持ちも理解はできる。君が、このことで心を痛めていることも。だが、現状では他に有効な策もなければ、時間もない」

申し訳なさそうな声音だった。彼がそうある必要はないのに。
わかってるよ、と半ば乱暴に言葉を返す。

「確かに、ゾディアークを召喚することによって災厄は退けられるだろう。だけど、それでは災厄の原因はわからないままだ。根本的な解決にはならない」

髪をかき上げる。自然と、語気が強くなってしまう。

「それなのに、人々の命を犠牲にしなければならない。エリディブス、君だって――」
「アゼム」

核として身を捧げるんだろう。そう続けようとしたところを、彼に遮られる。
はっとして彼に顔を向ければ、いつの間に素顔を見せていたのか、空色の瞳がまっすぐ私を見つめていた。

「君には、星の意志を創り出す以上に利のある策があるのかい?」
「それは……」

言葉に詰まる。
そう、私はこれ以上の策を提案できない。残された時間が少ない中で、これが現状の最善であると理解している。だから、今の私はただ、みっともなく駄々を捏ねているだけに過ぎない。
見るからに落胆した私を気遣ってか、彼は優しく話す。

「アゼム。私にも、思うところはあるさ。不安だって、ないわけじゃない」

だが、と彼は穏やかに微笑む。

「私が身を捧げることで、みんなの役に立てるんだ。それだけは素直に、喜ばしいと思うよ」

委員会の皆を誰よりも慕う彼だからこそ。どんな形であれ、貢献できることに喜びを感じるのだろう。
――ああ、どうして。彼を失ってしまうのが、こんなにも惜しくてたまらない。
だけど私には、彼を引き留めることはできない。そんな資格はない。

「……君がそう言うのであれば、私には何も言えることはないよ」

彼に、ぎこちなく笑いかける。私は上手く笑えているだろうか。

「だけど、計画への理解はできても、やはり賛同はできそうにないな」

このままでは平行線だ。しかしここで駄々を捏ねていても、人のためにも星のためにもならない。
だからこれは提案だ、と彼に告げる。

「……次に委員会で決を採る時まで。世界を巡って、最善の解決策を探してこようと思う」

人にとって世界にとって、本当に最善の解決策は何だろうか。
災厄の原因がわかれば、もっと具体的な策が見つかるだろう。

「その時までに間に合えば、私は大手を振ってここに戻ってこよう。だけど、間に合わなかったら――」

彼を見据え、きっぱりと言い放つ。

「アゼムは委員会を抜けたものとして、皆を調停しておくれ」

空色の瞳が、わずかに揺れる。しかし言葉を発することはなく、その瞳は伏せられた。
ひとしきり考えたのだろう。しばしの沈黙の後、彼は困ったように笑った。

「……それが、アゼムの意思ならば。私は尊重しよう」

彼は胸に手を当て、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

「私が『エリディブス』である限り。どんなに些細なことでも、君の意見を取りこぼしはしないさ」

そうして彼は、どこまでも優しく微笑むのだ。

「君が最善の策を見つけてくることを、最後のその時まで待っているよ」

――そんな会話をしたのが、少し前の話で。
あれからエメトセルクとも口論になったし、十四人委員会を抜けたことにもなってしまったし。それでも世界を奔走していたが、結果はどうだ。
終末はもうすぐそこまで迫り、いよいよゾディアークが召喚されようとしている。
時間切れ、か。結局、最善の策を見つけることはできなかった。エリディブスの信頼も裏切ってしまったな、と申し訳なく思う。
彼は今、どういう心持ちなのだろうと、アーモロートの方角を向いてぼんやりと思う。最後まで、私のことを信じて待っていてくれたのだろうか。
彼のいるだろうその方角に向けて、小さく祈る。私は彼の神に祈ることはできないが、せめてあの、心優しい青年のために。
私の身勝手が彼の心残りとならないように。私のことなど忘れて、委員会のため、ひいては人と星のための救いとならんことを。
彼らの旅路が、どうか善いものでありますように。