『拝啓――わたしの一番大切なあなたへ』
『日ごとに暖かさを感じられるようになりましたが……』
そんな書き出しから始まる、宛先のない手紙。季節が巡る度にしたため始めて、一体幾度目の春を迎えただろう。
『今年も桜が咲き始めました』
窓の外に目を向ければ、淡い空色を背景にして、ひらひらと舞い散る薄紅色の欠片が見える。穏やかな陽の光を受け、桜は段々とその身を着飾っているようだった。
『もう少ししたら見頃になりそうです。そうしたら、みなさんと一緒にお花見をしようと思っています』
満開の桜の木の下で、今でも志を同じくする仲間たちと共に。普段はそれぞれで忙しい生活を送っているから、たまにはゆっくり過ごすのも悪くはないだろう。
桜色の空を眺めて、盛大に宴を開いて。近況を報告しあったり、昔の話で笑いあったり。年月を重ねるうちに、雰囲気は少しずつ変わり、酒類の注がれるコップが増えていった。
ペンを走らせるうちに、はたと思い出す。宴といえば、
『先日、不思議な夢を見ました。みなさんと、あなたと、一緒に踊る夢を』
時間も忘れて、ただただ楽しく踊り続ける夢。かつての自分たちに戻ったようで嬉しくもあり、懐かしくもあり、そしてどうしようもなく泣きたくなってしまった。
少しずつ変わっていく仲間たちと、変わらない自分。理解はしていても、その差に少し怯えていたのかもしれない。だからこそ、夢の中は居心地がよかった。
『あなたもきっと、いつまでも変わらないのでしょうね』
記憶の中のあなたも、あの頃から少しも変わらず同じように微笑むだけ。
その柔らかな微笑みに向けて必死に手を伸ばしても、届くことはない。そう、今はまだ。
『わたしたちは、前に進み続けます』
そうすれば、いつか再びあなたの手を取れる日が来るかもしれない。あなたの笑顔を、また見ることができるかもしれない。
そんな日が本当に来るかもわからないけれど、信じることまで諦めたくはないから。だから、
『また会えることを、いつまでも願っています』
そうして、いつかあなたと再会した時に、あなたの帰る場所で在るように。きっとわたしの永遠は、そのためにあるのだと思う。
ペンを置き、便箋をそっと封筒に入れる。変わらぬ決意と、小さな願いも一緒に込めて封をして。手紙が届くことはないけれど、自身を奮い立たせるにはこれで十分。
――今日もわたしは、あの人が守った世界を守るために生きていく。