空の色、君の色

昼休み、静かな場所を求めて屋上に行くと、先客がいることに気がついた。黄色いマフラーをひらひらと風に遊ばせながら、ぼんやりと景色を見つめる人影。彼の視線の先には、遠くに並ぶ建物や風車、それから遥か遠くまで続く空と海。

「綾時?」

何をしているのか、と近づきながら問いかける。綾時はこちらに気づきやあ、とにこやかに挨拶をした。

「空を見てたんだ。今日は良い天気だし、雲も少ないし」

答えながら空を見上げる。釣られて視線を上に向ければ、いつもよりも高く見える青空がどこまでも広がっている。

「天気が良いと、それだけで気分が良くなる気がするんだ」

心なしか声が弾んでいる綾時をちらりと見やる。気持ち良さそうに大きく伸びをする彼の真似をして、小さく伸びをしてみた。心地好い風が頬を撫でる。
こんな風に空を見上げるのはいつ以来だろう。毎日がとにかく必死で、呑気に空を見ている余裕はなかったように思う。たまには、こんな時間があっても良いのかもしれない。
一緒になってしばらく空を眺めていたら、綾時がそういえば、と口を開いた。

「さっき、ちょうど君のことを考えてたんだ。髪の毛の色、こんな感じだったかなあって」

そんなことを言われたから、自分の前髪を少しつまんでみる。目先に映る群青の束と、その隙間を埋めるように広がる空色。ちらちらと見比べてみるが、どう見ても今日の空の方が明るい色をしている。
同じように見比べていた綾時もそれに気づいたらしい。

「ううーん、ちょっと違ってたね」

しょんぼりと肩を落とす。それから、考え込むように顎に手を当て、改めてこちらをまじまじと見つめる。
やたらと真剣そうな青い瞳に、何故だか引き込まれてしまう。

「そうだなあ、空じゃなければ……海の色に近いのかな?」

どこまでも深く、見えない底まで続く海の色。なるほど言われてみれば、そんな気がしてくる。
でもそれを言うなら、と綾時に負けじと口を開く。

「綾時の目も、青いね」

先程のお返し、というわけでもないが、綾時の顔を覗き見る。自分が槍玉にあげられると思っていなかったのか、彼は宝石のような瞳をぱちくりさせている。

「僕の目? 確かに、そうだね」

自分ではあまりわからないけど、と彼は笑う。

「空の色と、海の色みたいだ」

目を惹く天色の空と、光を反射して輝く紺碧の海。思い出すのは鮮やかな、

「……屋久島の色」

ぽつりと溢した言葉は、少し恥ずかしそうに笑っていた綾時にも聞こえていたらしい。

「屋久島かあ。僕も行ってみたいな」

目をきらきらさせながら、見知らぬ島へ思いを馳せる綾時。彼と行く屋久島は、一体どんな色を見せてくれるのだろう。そのことに、ほんの少し興味が湧いたから。

「今度、一緒に行こう」

そんな他愛もない約束を交わしてみれば。綾時の嬉しそうな笑顔に、あの夏の太陽の眩しさを思い出した。